日常の隙間
こんにちは!
AVCC2022 12/3担当
9期のでぃーらいゔ(Twitter : @D_rive_five)です!
僕について知りたい方は、去年書いたこちらの記事をどうぞ!
去年で自分についてはほとんど全部書いたつもりなので、今年は創作を書くことにしました。
テーマは「日常の隙間」。日常にありそうでない、ひょっとしたらあるかもしれないシーンを色々集めました。
《注意》
・バラバラな作品5本立てです。長いのもあれば、短いのもあります。どれを読んでも、どれを読まなくてもいいです。
・もしかしたら、既出なアイデアもあるかもしれません(意図的にパクってはないです)。ご了承ください。
・オチがないものもあります。
・各作品に対する僕のコメントは、注釈の方につけておきます。見たい人だけ見てください。全部読んでから見ないと、ネタバレを喰らうかも。
・各作品、強いメッセージ性はありません。作中に登場するキャラクターの意見も、僕の意見とは異なることがあります。
それでは、ささやかな非日常をどうぞお楽しみ下さい。
【お見合い】
「ままならない」という言葉は、僕みたいな人のためにあるのではなかろうか。
別に人生が全くうまく行っていない、ということではない。
ただ、なんてことない場面で「うまく行かないなぁ」と漠然と感じるだけである。
例えば、4人くらいで話している時、僕が話し出そうとするとほぼ確実に誰かと被って、「あ…先どうぞ…」ってなるし、卓上の醤油やらソースやらを取ろうとするタイミングも大体誰かとかぶる。
気にしすぎと言われればそうなのだが、どうも他の人に比べるとこういうことが多いような気がする。
そんなことを考えながら歩いていると、前からスーツを着た女の人が歩いてきていることに気づいた。
そのままではぶつかりそうなので右に避けようとすると、彼女も僕と同じ側に避けようとしたため、今度は左に動くも、彼女も同じ考えをしたようで、再び僕の前に出てきた。逆に止まってみたら、彼女も止まってしまった。
僕と彼女の攻防(?)はその後も数回続き、ようやく抜けることができた。
振り返って「すみません…」と声をかけるも、彼女は振り返ることなく歩いて行ってしまった。
この現象、「お見合い」とも呼ばれるらしいが、僕は週に3回以上こういう目にあう。
「どうぞ」と言って道を譲れば済む話ではあるけど、ただすれ違うだけのためにそこまでするのも大袈裟な気がしてなかなかできない。
正直すっごく気まずいので何とかしたいのだけど。
翌日、同じ道を歩いていたら昨日のスーツの女性がまたこちらに歩いてきた。
さすがに2日連続はイヤなので、できるだけ道の端に寄ってやり過ごそうとするも、道が狭い上に彼女も僕と同じく左右に動くので、結局昨日と同じような感じになってしまった。
2日目ということもあり、お互い昨日より素早く動いたり、緩急をつけたり、フェイントをかけたりしたものの、なかなか決着がつかず昨日と同じくらいの時間がかかってしまった。
昨日はスルーされたので何も言わずに行こうとしたら、
「ちょっとキミ!」
と、後ろから呼ばれた。恐る恐る振り返ると、スーツの彼女が仁王立ちをしていた。
「あ…すみません!」
あまりにも迫力のある佇まいだったので、怒られると思い、慌てて頭を下げると、
「お名前伺ってもいいかしら?」
「えっと…中沢ですけど。」
「中沢くんね。キミ、才能あるわね…良かったらウチのチーム来ない?」
「へ?」
突然のスカウト。意味がわからなかった。
「あ、ごめんなさい。まだ名乗ってなかったわね。私はこういう者です。」
そう言われて渡された名刺には、
『アクロス日本代表マネージャー:霧崎 花』
と書いてあった。
「はあ…」
「まあ驚くのも無理は無いわね。アクロスの選手って小柄な人が多いから。でも私もこう見えて、高校時代は日本大会の優勝チームの1人だったのよ。」
「いや、そうじゃなくて…あの、何ですか?『アクロス』って。」
「知らないの!?今いちばん流行ってるスポーツなのに。『アクロス』は簡単に言うと、相手の妨害を避けつつ沢山歩いてポイントを獲るスポーツよ。相手を妨害する時は、さっきキミがやってたように相手の前に立ち塞がらなきゃいけないの。
中沢くんは、やっぱりディフェンダーかな。うちアタッカーは結構いるんだけど、なかなかいいディフェンダーがいなくて。今ウチに来てくれたら即戦力なんだけど、どう?」
「さすがに言い過ぎじゃ…」
「ホントだって!私がこの目で確かめたんだから。多分、中沢くんは無意識のうちに相手の行動を読んで、同じ方向に体を動かしてしまう体質なの。無意識にやってるから、相手に読まれたり裏をかかれたりしないし、私が確認した限り、反応もめちゃくちゃ早いから、本当にアクロス向きね。
まあ、今すぐ決めなくてもいいから、良かったらウチの練習見に来てよ。名刺に必要な情報は書いてあるから。じゃ!」
そう言って、彼女は去って行った。
何だったんだろう、今の。
どう考えてもタチの悪い冗談だと思うのだが、ちょっと気になる。
練習見に行ってみるか。
「これが、僕がアクロスを始めたきっかけです。霧崎さんのおかげですね。
でも、ヒドかったですよ。当時はアクロス全然流行ってなかったんだから。霧崎さんが高校時代に優勝した大会も、参加したの4チームだったし。半分騙されたようなものですよ。」
「しかし、中沢選手率いる日本代表が優勝してから、日本でもアクロスが大流行しているのですから、あながち嘘でもなかったのでは?」
「まあ…結果オーライといったところでしょうか。霧崎さん、僕なんかよりよっぽど未来を見てるんじゃないかなあ。」
「それじゃあ最後に、子供達に向けてメッセージをお願いします。」
「えっと、僕なんかが言えることあるかな。そうですね、僕は昔から、『自分の人生ってままならない』って思ってたんですけど、あれは半分正しくて、半分間違ってたなって思います。人生って想定外の連続なんだと思います。僕があの日あの道で霧崎さんに出くわしてなかったら、自分の長所を短所だと思ったまま過ごすことになっていたわけだし。
だから、まだ見ぬ誰かと『出くわす』ことを恐れずに楽しみにしてて欲しいですね。その人が、自分も知らない自分の良さを見つけてくれるかもしれないから。逆に、人のいい所を見つけられるようにもなって欲しいですね。僕もそうなれるよう、これからも頑張り続けます。」
「ありがとうございました。今日の『話題の人』、ゲストはアクロス日本代表、中沢亮太選手でした。」
(完)
【ミュート】
昨今の情勢から、我が社でも会社への出勤を必須とはしないことにした。
社員の大部分は出勤していない。社長である私も、自宅からテレワークしている。
会議だって、この『CHAIN』があればどこでもできる。
『CHAIN』は我が社、ネクタクト社が開発した、オンライン会議用のツールだ。CHAINのおかげでネクタクト社は大きく成長した。現在もオンライン会議ツールの業界では国内シェア第1位である。
当然、我が社の会議でもCHAINを使うわけだが、この社内用のCHAINは、通常のものと異なる点がある。そのことは私しか知らないわけだが。
今日の会議でも使うとしよう。
「…ということで、CHAINに続くアプリケーションおよび、CHAIN拡張ツールの開発に関して、何か意見がある人はいますか?」
プロジェクトリーダーの間宮君が尋ねると、他の社員が次々に案を出していく。
彼女は本当に優秀で、私が口を出さなくても私の意図を汲み、会議を回してくれる。
当然ながら、話している人以外はミュートにしていることが多い。カメラもほとんどの人が切っている。
しかし、これではちゃんと参加しているか分からない。そこで私はある「機能」を社内用CHAINに密かに付け加えた。
「…うん。行く行く。ん?ああ、大丈夫大丈夫。CHAIN入っておけばサボっててもバレないから。」
来た。私は満を持して声をかける。
「有野君、ミュート外れてるよ。」
「…え?なんで?あ、すみません!いや、今のはその…」
「次から気をつけてね。色々と。」
そう言うと、すぐにミュートになった。
彼がミュートをし忘れていたわけではない。CHAINが勝手に外したのだ。
この社内用CHAINは、ミュート中だからと言って音を拾っていないわけではない。ただ他の人に流すのをストップさせているだけだ。
そこで拾った音を解析し、「人間の声」がずっと流れている人のミュートを1/3程度の確率で外す機能をつけた。
この機能を使うことで、対面会議なら起こり得ないサボり方を一部ではあるが防げる。
「人間の声」といっても、周囲の声の大きさでは反応しないし、仮に「人間の声」がしたとしても、常にミュートが外れるわけではないから、そこまで気づかれない。ON/OFFも切り替えられるから、たまに使って誰かに恥をかかせるくらいでちょうどいい。有野君もさすがにサボるのはやめただろう。一応見張っておくつもりだが。
今は我が社だけのテスト期間だが、うまく行ったら他の会社にも売り込むことを検討している。
会議が終わったので、CHAINを閉じようとすると、間宮君が「社長、ちょっと宜しいでしょうか」と声をかけてきたので、話を聞くことにした。
「どうしたんだね、間宮君。新アプリケーションについて何か気になることでも?」
「いえ、別件です。先ほどの会議中、有野のミュートが外れていた件についてですが、先週も似たようなことがあったので、もしかしたらCHAINに何か不備があり、チェックをした方がいいのではないかと思いまして。」
「やっぱり間宮君は鋭いね。でも、あれは不備じゃないんだ。実は…」
間宮君なら問題ないと思い、CHAINの追加機能について話した。
「なるほど。現在はその機能のテスト期間ということですか。盗み聞きとは趣味が悪いですね。」
「まあ、頻度が高いとそう思われかねないな。間宮君はこの機能に反対かな?」
「別にあっても私は困らないし、正直需要もあるかと。ただ…」
「ただ?」
「別に大した問題ではないのですが…説明するより、実際にやってみた方が速そうですね。一度試したいことがあるので、私の指定した日にその機能をONにしてもらえないでしょうか?」
「分かった。あらゆる状況を考えた方がいいからな。間宮君の言う通りにしよう。」
「…あとはコストが問題ですね。」
「まだ検討段階ではありますが、候補もいくつかあります。より安く抑える方法を考えましょう。」
言われるまま、彼女の指定した日にミュート解除機能をONにして会議を行ってみたが、今のところ何もない。ちょっと外が騒がしいぐらいだ。
そう思ったその時、
「「「「「「「この日本を変えたい!!!!!!!」」」」」」」
突然流れる大音量。慌ててイヤホンを外す。
画面を見てみると、何人もの社員のミュートが外れていた。
「あら、ミュートが外れている人がたくさんいます。何か意見ですか?」
間宮君が言うと、一斉にミュートがかかる。その後は何もなかったかのように会議が続いた。
「さっきのあれは何だったんだ?」
会議の終わったあと、私は間宮君に尋ねた。
「簡単なことです。今日は社員に会社に来るよう伝えて、適当なタイミングで換気がてら、窓を開けただけです。」
「私以外、全員会社にいたのか。」
「はい。そして今週末は選挙があるので、会社のすぐ近くで演説が行われていました。大音量で。」
「それで何人もの社員のミュートが外れて、音量が何倍にもなった演説が耳に飛び込んできたのか。」
「まあ、そういうことです。このように、人が集まっている場合は、この機能は危険かもしれませんね。まあ、本来ミュートはそういう騒音を防ぐためのものでもありますし。ただ、人間の声だけを選別できるのなら、こうした事態を防ぐように作るのも難しくないかと。」
「なるほど。貴重な意見をありがとう。次はその辺りを改善してみよう。」
「私も今後は、会社への不満は小声で言うよう心がけます。」
「不満があるのかね?」
間宮君がミュート中にどんな不満を言っているのかは普通に気になる。引き抜かれたりしたら大変だ。
「はい。主に給与面に。」
「…そこも改善を検討しよう。」
「ご心配なく。他社に移る気はないので。待遇さえ良ければ。」
やはり間宮君には敵わない。何も言わなくても全てを見抜かれている。彼女の前ではミュートしていても無駄かもしれない。
私はミュート解除機能の改善と、間宮君の昇給を決意するのだった。
(完)
【切り抜き】
「こうかな…いや、もうちょい右か…?」
初めて「切り抜き」というものを作っているけど、思っていたより難しい。
「うーん…何か違うなぁ…私が見てるのと何が違うんだろ。」
参考用に用意した動画を見返す。私の作ったものとは違って、内容が簡潔で分かりやすいし、見栄えも良い。
「そうか…フォントが違うのか!ちょっと色々試してみよ。」
あれこれ試行錯誤した末、ようやく切り抜きが完成した。
「出来た!出す前に誰かに見て欲しいなー。」
ちょうどその時、先輩が帰ってきた。
「お疲れー。」
「あ、先輩!良いところに!私初めて切り抜き作ったんですけど、ちょっと見てもらえますか?」
「切り抜き?アンタ仕事サボってそんなもの作ってたの?」
「いや、仕事ですよ!来週必要って言われたんです。」
「ふーん。どれどれ…」
おまエの息子は あずかっタ
3000万えン ようイして
12/21 ごご さン時 に
ミすみダい公えん 二 こい
「???…ああ、切り抜きってそっちか。動画の方かと思った。」
「来週の水曜サスペンスの撮影に使うんですって。私も昔の作品を見返して、見よう見まねで作ったんですけど、文字の配置を調整したり、内容を短くまとめたり、フォントをバラバラにしたりと、意外に大変でした。」
「いいんじゃない?いい感じにバラバラで、視聴者に恐怖も与えられるし。」
「やったー!じゃ、これ撮影班に提出してチェックもらいに行ってきます!」
「行ってらっしゃい。」
ここは潮騒テレビの物品制作班。撮影に使うあらゆるものを作る部署だ。
今回みたいに、めったに使わないモノが作れるので、とても楽しい。
次はどんなモノ作れるかなー?
そう思いながら、私はテレビ局の廊下をスキップで進むのだった。
(完)
【懸賞】
「これ私じゃ解けないから、代わりに解いてよ!カケルってこういうの得意でしょ?」
「いやだから、パズルと謎解きは違うっていつも言っ…」
「でも私よりは解けるでしょ?これ解けたらいいお肉もらえるんだって!半分お肉あげるからさー。」
「『解けた人の中から抽選で1名』って書いてあるけど?…まあいいや。普通の雑誌のパズルだし。すぐ終わるでしょ。」
「じゃ、決まり!よろしく!」
と、ヒカリに押し付けられた僕。
さすがに肉は当たらないと思うが、さっさと解いてしまおう。
早速、目次で懸賞のパズルのページを探す。タイトルは「今月のクロスワード」。
謎解きかどうかは置いといて…見てみるか。
え?何コレ?
カギはタテヨコ共に10個くらいある。特に難しいヒントがあるわけでもない。
ないのは……盤面の方だ。
正確に言うと、「ここに盤面があります」みたいな顔をした白い正方形しかない。
一瞬思考がフリーズしたものの、よくよく考えると、こういうやつはどこかの謎解きで見た気がする。
要はカギの文字数とかから、うまく盤面を復元すればいいのだ。
それにしても、懸賞をちょっとナメていた。
10分あればいけると思っていたが、思ったより強敵かもしれない。
そこから奮闘すること30分。
盤面の復元はけっこう大変である。
なにしろ、「日本三景の一つ」とか、「世界三大珍味の一つ」とか、言葉が1つに絞れないものが多いのだ。
これはもう少しかかりそうだな…
さらに15分かけて、ようやく正しい盤面に辿りついた。
時間をかけただけに、達成感はかなりのものだ。
あとは答えを拾っていけば…
『答えはABCD』
パズルの一番下にはそう書いてあった。
しかし、当然ながら復元した盤面にA〜Dの文字はない。
全探索するか?
…いや、4文字の言葉はあまりにも候補が多すぎる。
「できたー?」
横でスマホをいじっていたヒカリが横から覗き込む。
「いや…もう少し。あと一歩なんだけどな…」
「ふーん。意外と難しいんだ。」
「思ってたよりは。ただ…思ってたより面白い。」
まさか「面白い」と思うことになるとは。
「てか、これ作った人すごくない?」
「まあ確かに…うまいこと別解が生まれないように作ってあるし。」
「いや、そういうのは分かんないんだけどさ、ここの『ラベル』とか、『グリーン』とか、記事に関係ある言葉使ってるじゃん。」
「クリエーター的に使いたいんだろうな、そういう単語。っていうか、何の記事の話?」
「表紙見てないの?今月は『リサイクル特集』だってよ。」
「リサイクル…」
ヒカリのおかげで、いつの間にか自分の視野が狭まっていたことに気づく。
これは雑誌の懸賞のパズル。他のページにヒントがあってもおかしくない。
パラパラめくっていくと、あるページに目が留まる。
『先月の答え』
そこにあったクロスワードの白マスと黒マスの配置は、先ほど復元したものと一緒だった。
なるほど。今月のテーマに合わせて、盤面を「再利用」したのか。
それならば、A〜Dの場所も同じはず。
確証はないものの、復元した盤面から文字を拾っていくと、「アゲイン」という答えが得られた。
「解けた。」
「できたの?すご!やっぱカケルに頼んで正解だった!これで肉ゲットだ!」
「まだ確定ではないけど、こんだけ難しいなら高確率で当たりそう。」
「よし!じゃあ、このハガキに色々書いて出しといて!」
そのぐらいヒカリがやってもいいのでは?と思ったが、この作品を楽しませてもらった身として、色々書きたい思いもある。ヒカリから応募ハガキを受け取り、自分の感想を綴っていく。
それから2週間後、家に肉が届いた。
正直当たるとは思っていなかったが、やはり倍率が低かったのだろうか。
ヒカリに伝えると、10分後に家に来て、
「すき焼きにしよう!」と言いながら入ってきた。
準備のために肉を取り出そうとすると、折り畳まれた紙が一緒に落ちてきた。
紙を開くとそこには文章が書かれていた。
神崎 翔琉 様
このような形で失礼します。Wimor 編集部の岡嶋と申します。
この度は、Wimor 20XX年11月号の懸賞に応募していただき、ありがとうございます。
応募の際に書いてくださったアンケートの方を読ませて頂きました。
今月のパズルに高評価をしてくださり、ありがとうございます。
ただ、非常に申し訳ないのですが、クロスワードの盤面がなかったのは単なる印刷ミスなのです。
お恥ずかしい話ですが、ご指摘の通り制作者が盤面を「再利用」しようとしていたために、盤面の画像を差し込むのを忘れていまして。
ミスが判明して販売を一時ストップするのが遅く、一部商品は盤面が白いまま売られてしまったのです。
当然、他のお客様からもご指摘を頂いており、その方々には正しい盤面を送らせて頂いたのですが、まさかその状態で解いてしまわれる方がいるとは思わず、今回懸賞の抽選とは別に、応募してくださった商品の方を送らせて頂きました。
もしよろしければ、どのようにして答えを導かれたのか詳細に教えていただくと幸いです。今後の参考にさせて頂きます。
改めて、この度はご迷惑をおかけしました。
Wimor を今後ともよろしくお願いします。
岡嶋 正一
読み終わると、もうすき焼きの準備が整っていた。
「何が書いてあったの?」
ヒカリがコンロの火を調整しながら聞いてきたので、
「『解けてすごいです。おめでとうございます。』みたいな内容。」
と適当に返した。
まあ、こっちは楽しませてもらったし、肉を確実に得られたので特に文句はない。謎クラの深読み癖もたまには役に立つものだ。
今後こんなに楽しめる懸賞は多分ないだろう。
「よし、お肉いい感じ!いただきます!」
「いただきます。」
戦利品のすき焼きを2人で味わう。
うん、やっぱり自分で勝ち取った肉は美味い。
(完)
【勇敢】
「ついに、ゆうかんなももたろうと、そのおともたちは、わるいおにをたおしました。
そして、たくさんのたからものをもちかえって、おじいさんとおばあさんと、しあわせにくらしました。
めでたしめでたし」
子供たちに「ももたろう」の読み聞かせをしたあと本を返しに戻ろうとすると、
莉奈ちゃんに
「ゆうこせんせー?」
と呼び止められた。
「なーに?」
「『ゆうかん』ってどういういみ?」
莉奈ちゃんは早くもひらがなの読み書きを勉強していて、大人びた子である。
さっきの読み聞かせで分からなかった単語を聞きにきたのだろう。勉強熱心だ。
「『ゆうかん』っていうのはね、こわがらずに、わるいものとたたかうことだよ。」
「そうなんだ!じゃあさ、じゃあさ、このまえ、わたし『ゆうかん』だったよ!」
「なにかしたの?」
「うん!あのね、わたし、えすかれーたーのみぎがわで、たってたの。」
「えすかれーたーのみぎがわ?」
「そう、『えすかれーたーは、あるいちゃいけません』ってかいてあったのに、みぎがわをあるくひとがいたから、とおれないようにとまったの!」
その話を聞いて思い出す。最近では2列のエスカレーターは両方とも歩行禁止になっているところも多いらしい。単純に危険だし、一列しか使ってないのに長蛇の列ができるのも効率が悪い。もっともな意見ではあるものの、世間にはあまり浸透していない。
「りなちゃんはえらいね。」
「あ、でも、やっぱりわたし、『ゆうかん』じゃないかもしれない。」
「どうして?」
「たたかってないもん。ただたってただけで、あるいているわるいひとに、『だめだよ』っていったわけじゃないもん。」
「たってるだけでも、あぶないひとがいなくなるから、じゅうぶんえらいよ。」
「でも、へんなの。なんでみんな、ひだりがわにばっかりたってるの?」
聞かれて答えに詰まる。私もいつもエスカレーターの左側ばかり使っている。今まで使わなかったからだろうか。
「むかしは、ひだりがわしか、つかわなかったからかな。」
「でもでも、いまはつかっていいんでしょ?つかったほうがみんなうれしいのに。」
「いまでも、みぎがわをあるきたいひとが、たまにいるから。そのひとのためにあけてるんだよ。」
「でもでもでも、『あるいちゃだめ』っていっぱいかいているのに、あるいているのは、わるいひとでしょ?ゆうこせんせいも『きまりはまもりましょう』っていってるじゃん。なんでみんな、わるいひとをそのままにしてるの?あぶないのに。」
「それは…」
5歳の女の子に言い負かされそうになる。彼女の指摘を受け、じっくり考えてみる。
きっと、右側に立つことに恐怖があるのではなかろうか。
右側に立つことで、自分はマイノリティになる。その行動は正しくても、後ろから多くの人にその姿を見られるのは、やはり怖い。
もし下から歩いてくる人が来たとして、「歩くの禁止になったんですよ」と、堂々と言える自信もない。
大多数と同じように、多少の無駄と不便はあっても、特にルールに反しておらず、マジョリティに浸れる左側に居続けるほうが、ずっと気持ちは楽なんだろうな。
これをそのまま莉奈ちゃんに伝えるわけにはいかないが、何と答えるのが正解だろうか。
「りなちゃん。それはね、みんなが『ゆうかん』じゃないからだよ。りなちゃんがすごく『ゆうかん』だからだよ。」
「でも、たつだけだよ?たたかうわけじゃないよ?」
「りなちゃんは、みぎがわにたつの、こわくないよね?」
「ぜんぜん、こわくないよ。」
「みんなはね、みぎがわにたつの、こわいんだよ。りなちゃんは『ゆうかん』だから、こわくないんだよ。」
「どうしてこわいの?」
「うまくいえないけど、せんせいもこわいんだ。でも、りなちゃんはまちがってないよ。わたしも、りなちゃんみたいに『ゆうかん』になれるようにがんばるね。」
「ほんとう?ゆうこせんせいががんばるなら、わたしももっともっとがんばる!」
莉奈ちゃんは満足してくれたようだ。
それにしても、『勇敢』になるのって難しいのかもしれない。
なんてことないことなのに、いやだからこそ、周囲に逆らうのは難しいのかもしれない。
その日から、私はエスカレーターの右側になるべく立つことにした。
視線が怖くないわけではないが、莉奈ちゃんとの約束を破ることの方がよっぽど悪いことに感じてしまったからだ。
自分のしていることが正しいのかどうかはわからない。自分のためにしているだけかもしれない。
とにかく、こんなことが『勇敢』でも何でもなくなる日まで、私は右側を選び続けることにしようと決めた。
(完)
《終わりに》
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
各作品に対するコメントは
こちら*1から見れます。
さらに、【お見合い】については、おまけもあります。こちら*2からどうぞ。
それにしても、自分の妄想を出力するとこんなに長くなるとは…
皆さんも、「日常の隙間」を見つけて、いろいろ妄想してみては?
意外と楽しいよ!
*1:
【お見合い】
スカウトされる所までは書く前から決めていたものの、まさか新スポーツを作る羽目になるとは…
【ミュート】
「こんな機能あったらどうなるか?」だけで書きました。大学に実装されてたりして。ネクタクトはconnectとcontactから。
【切り抜き】
「誘拐犯はあれを作っている時、どんな気持ちなのか」と思ったらこんな作品に。叙述トリックを使うつもりはそんなになかったのですが、ガチの誘拐犯を出すのもどうかと思い、テレビ局を登場させることにしました。
【懸賞】
結果的には「謎クラ行き詰まると深読みしがち」を書くことになりました。ちなみにWimorはwind + rumorです。「風のうわさ」は間違いとされることが多く、「風の便り」の方がより良い表現らしいですが、今回はあえて前者を採用しました。
【勇敢】
タイトルを「エスカレーター」にするとかえって読みにくいのでやめました(ついでの最後の話っぽくカッコよくしました)。別に、「みんなで右側に立とう!」と言うつもりはないです。僕も左側に居続ける人間です。
*2:
《アクロスについて》
・赤チーム(ホーム)と青チーム(アウェイ)で対戦する。制限時間は15分×3セット
・フィールドは8の字で、中心に各チームは待機する。
・8の字型のフィールドのうち、一つの円は赤、もう一つの円は青で塗られている。
・どちらかの円を、赤チームは時計回りに、青チームは反時計回りに一周することでポイントが得られる。
・自分のチームの色と同じ円を一周した場合5点を獲得し、相手のチームの色と同じ円を一周した場合1点を獲得する。
・各円には各チーム1人ずつしか入れない。つまり、赤の円には「5点を取れる赤チーム vs 1点を取れる青チーム」が、青の円には「5点を取れる青チーム vs 1点を取れる赤チーム」が1人ずついることになる。
・円を進む途中で相手と遭遇した場合、進路を妨害することができる。ただし、可能な妨害は相手の前に立ち塞がることのみであり、力ずくで抑えたり、無理やり突破したりしてはいけない(審判が常に判定する)。2人が横に並んだ場合、互いを妨害することはできず、そのまま通り過ぎるしかない。
・アタッカー:自チームと同じ色の円を歩いて高得点を狙う。
ディフェンダー:自チームと異なる色の円を歩いて相手の得点を阻止する。
・一般的に、ディフェンダーが完璧に相手を阻止することは難しく、より速く動き、より突破力のあるアタッカーを育成するのが主流である。